子は誰からもの脚


思わず頭を振ったが、縄目にあえいだ主人の顔を思い出すと、細身の中央がずくんと熱を持ち固く張った。どれほど会いたくとも、もう会えない思い人がまぶたに浮かぶ。

「困りましたね。まったく……可愛くてどうしようもありません…どうしましょうか、冬月さま。あなたがわたしを置いて逝ったりするから、あなたによく似た掌中の珠を、時折、木端微塵に割ってしまいたくなるじゃありませんか……」

手のひらの懐中時計の内蓋に、今はない月虹の父親の姿があった。ロココ時代の焼き絵と同じ手法で描かれた肖像が、涙で滲む。追慕の想いは、深かった。
元々、そんな性癖の金剛が己を律して月虹の傍にいるのには、冬月と交わした約束があったからだ。

「金剛。どうやら、ぼくは……もう、本復しないみたいだよ。父上と医者の話を聞いてしまったんだ。」

「冬月さま、お気の弱いことをおっしゃってはいけません。金剛がお傍に居ります……」

「ねぇ。月虹は父上の血を濃く継いだようだね。あの好かれるし、とても人懐こいんだ。写真を見ると……まるで、ぼくの写し鏡のようだよ。ぼくがいなくなったら、あの子を君に預けるから、ぼくだと思ってえてくれるね?」

「そのようなことを、おっしゃらないでください。金剛は冬月さまとご一緒に、月虹さまを御支えするのですから。」

不治の病に倒れた父、冬月は、愛する若い執事に愛息の全てを託し、引き受けた金剛は約束を守った。
忠実な執事は、主人の頼みに諾と頷くしか術はなかった。忘れ形見を、きっと仙道家の跡取りとして育てると細くなった指を絡ませ約束をした。

幼い月虹の中に想い人の面影を捜し公開大學 課程求める自分を、滑稽だと思う。
誰よりも有能な執事、金剛氏郷は、自らの性癖を理性で強引にねじ伏せた。
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